今泉力哉『退屈な日々にさようならを』

「あの人は花を買う、あなたは花を買わない」

 人を好きになることって、大概そんなものだと思うのです。相づちの打ち方だとか、目を伏せたときのまつ毛のかんじとか、自分の好きな画家のことを知っていたとか。前に付き合っていた恋人と別れる直前に、私が仲良くしていたいくつも歳上の男の人が、私のトートバッグを一瞬でエゴン・シーレのものだと分かってくれた、という話をしているのを電車のなかで聞いていたときの彼の表情は、そういう、人が人に恋をする仕組みみたいなのに気がついている人のものだったのでしょう、きっと。

 今泉力哉『退屈な日々にさようならを』(2016)。やっぱり今泉力哉は好きになれないし、この映画もあまり良いとは思わなかったけれど(これを観るならば私は断然濱口竜介『ハッピーアワー』(2015)を推します)、それでも時折真理をついているように感じる言葉がありました。日常なんていうものは簡単にこわれ、それでも人びとは生活をつづけていくのだ、と、そんなことを言いたかった映画なのではないかと。

 映画とおなじタイトルで、カネコアヤノの歌が主題歌になっているのですが、それがとても、とても好きでこれを観ることにしたので、のせておきます。「仕方がないことだ」って言葉に何度も救われるような、突き放されるような、赦されるような、そんな気持ちになるのです。

カネコアヤノ「退屈な日々にさようならを」